『 わたしの ジゼル ― (2) ― 』

 

 

 

 

 早春のある日  ― 

 

お日様がそろそろ天辺から西に向かって顔を傾け始めたころ。

海岸通りから別れた私道 ― かなりな急坂を

女性が一人 ゆっくりと上ってゆく ・・・  泣きながら。

金色の髪が 午後の陽射しにきらきらと輝いている。

 

帰り道 声を上げて泣けるのは邸へと続くあの坂道 だけだった。

 

フランソワーズは 泣いた。  

顔をゆがめ 空を仰ぎ 声を上げ ― 泣いた。

 

涙は頬から首を伝わり 襟元がぐっしょりと濡れてきた。

それでも 彼女は泣き続けた。

 

  悲しかったから?  悔しかったから?  辛かったから?

 

         そうじゃ ない。

 

「 ・・・ ふ ・・・う ううぁア・・・  」

彼女は  心の底から吹きだす 喜び で泣いていたのだ。

 

   カトリーヌ ・・・!  二コラ !

   黒い瞳のアヤ ・・・ 

 

   ああ 本当のわたし を覚えていてくれるのね

     18歳のフランソワーズ を。

 

   ああ ああ  ああ  嬉しい ・・・

   本当のわたし は ちゃんと生きていたんだわ

 

     あなた達のこころの中に!

 

 

とんでもない運命の狂った嵐に捕らわれ ― 無茶苦茶な日々の果て

やっと ごく普通の日々 を手にいれた。

あまりにも過酷な日々を もう思い出したくもなかったし

いちいち感情を動かしていたら たちまち心が壊れてしまう。

自分自身を護るため 彼女は固く心の扉を閉ざしていた。

激しく感情を動かすことを封じていた。

 

  それを 今 ― 一気に解き放った ・・・ !

 

「 ・・・ 嬉しい ・・・ !!  ああ 嬉しい わ 

フランソワーズの心の中で ずっと ― 先ほどの情景を反芻していた。

 

 

どうぞ、と その女性はドアを開け彼女を招きいれた。

事務室にも見える私室だったが 瀟洒ででも居心地のよい雰囲気だ。

「 お掛けになって・・・ ああ あなたのお国に言葉の方がいい? 」

「 どちらでも ・・・ 」

「 そう? じゃあ ― 」

女性は ― このバレエ団の主宰者であり初老、といっていい年代らしいが

声には張りがあり なによりも背筋はぴんと伸びている。

彼女は 流暢なフランス語で話し始めた。

 

「 おばあちゃんの思い出話だと思って すこし聞いていただける? 」

「 は はい ・・・ 」

「 私 貴女くらいの頃 パリのバレエ学校に留学していたの。

 ええ もう何十年も前のコトですもの、日本人では珍しかったと

 思うわ。 もう毎日 夢中だった ・・・ 」

「 ・・・ はい 」

「 一日中ず〜〜っと学校のスタジオで自習したりして・・・

 その時 憧れの上級生がいて  そのヒトがアナタにそっくりなの 

「 ・・・  そ のひと は 」

「 なにか事件に巻き込まれたらしくて 行方不明になって。

 周囲の友人達は悲しんで 嘆いて 怒って ― 決心してたわ

 一番の親友の方はね 踊って世界中を回るって。 彼女を探すために。

 パートナーだった方は 彼女のためにカンパニーに残るって。

 いつ戻ってきてもいいように ・・・ってね 」

「 ・・・・・ 」

「 私も微力だけど この国に戻ってきてからいろいろ探したけれど・・

 数年後 親友の方とは初の来日公演で会うことができた ・・

 パートナーだった彼は プロデューサーになっていたの。

 そして 一生 彼女のことは忘れないようにしましょう と

 誓いあったの。  」

「 ・・・ す  すてき ですね 」

「 ふふふ 年寄の昔話よ ・・・

 で 偶然出会った そっくりな貴女・・・ 放っておけなかった 」

「 ・・・ え 

「 オーデイションで踊る貴女を見たとき 息が止まるかと思った・・・

 あんなに憧れていた彼女が 目の前にいる って。

 それも何十年も前と少しも変わらない姿で ・・・って。 」

「 ・・・ わたし は ・・・ 」

「 ええ ええ ごめんなさいね、 私の勝手な思い込みよ。

 でも 声をかけずにはいられなかったの。

 だってアナタ ・・・ とても踊りにくそうだったわ 

「 あ  あの ・・・ わたし、事情があって・・・

 そのう ・・・ しばらく踊れなかったのです 」

「 そう・・・ブランクがあったのね。

 でも また ― この世界に戻ってきた、そうでしょう? 」

「 はい。 その ために それを目標に ・・・ い 生きてきました 」

「 ダンサーなのね 貴女も 」

「 そうなりたいです 」

「 それじゃあ ね 」

「 はい? 」

「 それなら。  ウチで ここで レッスンを受けたらいいわ 

 レッスン生として 私のクラスに通っていらっしゃい  」

「 ・・・ え ・・? 」

「 お家の方に許可を頂いていらっしゃい  待ってますよ 

「 は  はいっ !!! 

 

 

     たったった♪  ふんふんふ〜〜〜ん♪

 

金髪娘が 軽い足取りで舗道をゆく。

ふわり ふわり 金の髪を翻し 宙に浮いている のかもしれない。

帰り道は 来る時とはまったく別の世界に思えた。

 

「 あら!  こんなに新しい葉っぱが ・・・ 

 うわあ〜〜〜 公園の木、ピンクの花が咲いてる!

 え〜〜〜 もう桜が咲いてるの??  うわあ〜〜〜 きれい〜 」

「 あ?  ここから ・・・ 白い山が見えるわ

 あれって・・・ わ〜〜 フジサン?  きれい〜〜 」

行きは緊張していて 足元の敷石しか見ていなかった  らしい。

「 都心に近いのに 素敵な町ねえ・・・

 ねえ よろしく! わたし これから毎日 来まぁす♪ 」

街中に 笑顔を振りまき 手を振りたい気分だった。

 

電車の中では こみ上げてくる温かい想いに 滲んでくる温かい

涙を隠すのに必死だった・・・

そして 邸への坂道で  ―  とうとう彼女は泣き出した 声を上げて。

 

ただいま、の声に 迎えてくれたジョーは 目を見張っていた。

「 あ お帰り  ?? あ の 合格 ・・・? 」

彼はむちゃくちゃ複雑な表情を見せた。

 

    あ ・・・ うふふ ごめ〜〜ん

    こんな顔 可笑しいわよねえ?

 

    さんざん泣き笑いしてきたから・・

    あのね  ジョー 聞いて!

 

博士にも すぐに伝えようと思っていた。

わくわくしつつ もう嬉しくて仕方がない。

状況はいろいろ違うが やはり 同じ時代 を生きてきたヒトなのだ。

親近感を感じてしまうのは 自然のことかもしれない。

 

   けれど  ―  リビングで 博士の前に立ったとき 

      

        彼女は こみ上げる想い を 封じ込めた。

 

 

 く・・・っと なにかを呑みこみ ごく自然な風に

今日の結果を 結果のみを報告したのだ。

 

 

 これは すこし先の話になるが ―

彼女はジョーに こそっと打ち明けた。

 

「 やっぱりなにかあったんだね 」

「 ・・・ わかってた? 」

「 なんとなく・・・ だってあの時のきみの顔・・・

 普通に泣いた後 とはとても思えなかったもの 」

「 え やだ〜〜 そんなに腫れぼったい目、してた? 

「 いや〜〜  なんていうか ・・・

 ただ事じゃあないなってカンジかな 」

「 ・・・ そう ・・・ 

「 それに さ。 なにか聞いてはいけないって雰囲気だったし。

 でもね その後のきみの笑顔が −  なんていうか・・・

 とても自然で印象的だったから・・・

 ぼくは それ以上 なにも聞けなかった 」

「 ・・・ ジョー ・・・ ありがと 

フランソワーズは そっと彼の手に触れた。

 

     大きな手  そして 温かい・・・

     ツクリモノ で 偽物の血液が流れている けど。

 

     この手の持ち主は 真に温かい人 だわ

 

「 よかったら  聞くけど。  それで − ? 」

ええ ・・・ と彼女は頷き その日聞いた小説みたいな出来事の仔細を

彼に話した。

「 ・・・そ  うか ・・・ 

 それは 素晴らしい奇遇だね 」

「 そう なの   ええ そうなのよ 」

「 それで きみは顔が腫れあがるほど 泣いたのか  

「 そう なのよ 」

「 その先生は きみのこと、< わかった > のかな 」

「 ・・ ううん。  ただの他人の空似だと思ってるみたい。

 当然よねえ ・・・ 40年以上 容姿が変わらない なんて・・・

 に ・・  人間じゃないもの。 」

彼女は自分でそう言い切ってから 俯いている。

「 ・・・ 」

 

   ほわん。  大きな温かい手が 彼女の肩に触れた。

 

「 そんなこと 言っちゃいけない 」

「 ・・・ ジョー ・・・ 」

「 でも その先生は喜んでいたんだろ? 

 そのう・・・ < そっくり > なきみと出会って 

 ずっと抱えてきた想いを語れて 」

「 ・・・ 多分 ・・・ 」

「 なら それでいいんだ と思う。

 誰でも ず〜っと心の奥の奥に仕舞っておきたいことって あるし。」

「 ええ ・・・ 」

「 博士にも そう いつか・・・

 さらっと話しても いいんじゃないかなあ 

 

フランソワーズは ゆっくりと顔をあげた。

その頬に涙の跡は見えたけど 彼女は 今、泣いては いない。

 

「 ・・・ 言えない、 言っちゃいけない と思ったの 」

「 ! どう して?! 」

ジョーは 驚きを隠さなかった。

「 なんで??  博士ってばね きみが帰ってくるまで 

もうね うろうろそわそわ・・・ もう心配しまくってたよ? 」

「 ・・・ 」

「 ぼく ・・・ ちょっと羨ましいなあ〜 って思ったくらい。

 やっぱりオンナノコは違うんだなあ ってさ〜〜 

 大事な娘のことを心配するお父さん って感じでさ  

「 ジョー。  わたし、博士のこと、敬愛しているわ。

 尊敬してるし 家族 だと思ってる。 

 愛してるわ 家族として ― 今は  ね。 」

 

      でも  でも ね。  

 

すとん、と声のトーンを落とし その頬から笑みは消えた。

「 ・・・なんか  あった ? 

「 ジョー  

彼女は真正面から 彼を見つめた。

 

    わたし を  本当のわたしを こ 殺して 

    003 にしたヒト よ

 

    あのヒトが この機械仕掛けの身体に したのよ

 

「 そ それ は ・・・ !  」

「 今は 博士の人柄も性格も よくわかっているし

 今までの行動を尊敬もしているわ。 」

「 だよね!   今はもう家族だよね  」

 

       だけど。  

 

彼女はもう一度 ジョーを見た。

それは まっすぐで一遍の感情も含まれてはいない眼差しだ。

「 ・・・ ? 

彼はその視線の強さに驚き 少し視線を逸らせたほどだ。

「 だけど ね。  わたし ― 」

「 ・・・ う ん ? 

「 忘れる なんてできない。 

 わたし 心が狭いのかもしれないわ 

 忘れたフリはできるでしょう でも 本当に忘れる なんて出来ないの。

 そういう状況にいる人に対して 話すコトではない、って思ったの。 」

「 ・・・・ 」

「 だから わたし。 このコトはジョー以外には 言わないわ。

 ずっと心の奥のチェストに 仕舞っておくの。 」

「 ・・・ あ あの。 ごめん  ぼくは  ・・・ 

 その ・・・ 一番最後に加わった新参者で

 きみ達の気持ち、全然共感できなくて ・・・ ごめん。 」

「 ああ 気にしないで  それはジョーのせいではないわ 」

「 だけど ・・・・ 」

「 仕方ないことでしょ?  気にしないで。

 ああ やっぱりわたし、心が狭いのね ・・・ 

 ジゼル のように 自分を裏切ったヒトに 

 どうぞ 幸せに生きて って言えないの 」

「 無理に言う必要 ないよ!

 きみは きみの信ずる道をいったらいいんだ !

 ぼく できる限りサポートするから。 

 残念だけど ぼくはダンサーじゃないから ・・・

 そんなことしかできないけど 」

「 ありがとう!   でもね ジョー。 」

「 なに ? 

「 ジョーは ジョーの道を歩いて欲しいわ。 」

「 え・・・ 」

「 ジョーには ジョーだけしかできない・ジョーだけが

 やりたいこと、あるでしょう? 

「 あ ・・・ う〜〜ん?? 

 ある かなあ・・・? 」

「 あるわ 絶対に。 だから それを探して

 その道を行って欲しいの。 だってジョーの人生でしょう? 

「 それは まあ ね。 」

「 うふ  でも ありがと♪ 聞いてくれて・・・

 ジョーがいてくれて ・・・ 幸せよ。 

「 えへ・・・ そ そう? ぼく 聞くことしかできないけど 」

「 ううん ううん!  ジョーが ・・・ 

ジョーじゃなくちゃだめなの。  ジョーが いいの。 

「 えへ ・・・ そ うなんだ? 

 

   うっぴゃ〜〜〜〜〜〜 !!!

   やば〜〜〜〜  超やば〜〜〜〜 !

 

   うっそだろ?? って 

    う  わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

いつもと変わらず穏やかに微笑みつつ ― 彼だってオトコノコなのだ。

内心では 欣喜雀躍 つまり ぶっ飛んでいたのである。

もっとも 目の前の金髪美少女は微塵も気付いてはいない ・・・

 

 

  そして  フランソワーズの < 新たなる闘い > が

始まった。

 

 

「 いってきまあ〜〜す 」

「 気をつけてな 」

「 はあい。  あ 博士、 ジョーを起こして 

「 わかっとる。 お前は自分のことに専念しなさい 」

「 はあい 」

彼女は 毎朝 海に近い町外れから バスとJRとメトロを乗り継ぎ

レッスンに通い始めた。

 

 

その朝も 元気いっぱいスタジオに入った。

すみっこのバーには <仲良し> が もうストレッチをしていた。

「 おっはよ〜 みちよサン 」

「 フランソワーズ。 おっは〜〜  <サン> いらないって 」

「 あは ごめん〜〜 みちよ 」

「 おっけ〜  今日はちょっと早いね? 」

「 ええ がんばって一本早い電車に乗れたの〜〜 

 ねえ ・・・ 皆 見てるの、なに? 掲示板とこ 」

「 え? あれ・・・ 知らないかあ・・ 

 次のパフォーマンスの課題発表なのさ 」

「 ?? それ・・・ 公演とはちがうの? 」

「 公演はあ 団員さん達が踊るの。

 アタシら研究生は パフォーマンスで課題を踊って・・・

 いい評価をもらって団員になるんだ 」

「 ・・・ テスト ね? 」

「 まあ そんなモンかな。 」

「 ふうん ・・・ 」

「 ふうん、って。 フランソワーズ、全員参加だよ?

 フランソワ―ズも踊るんだよ? 」

「 え。 」

「 え  じゃないよ〜〜 あとでよっく読んで課題を選んで

 先生に申し込む 」

「 ・・・ あの 日本語? 」

「 あ いいよ 一緒に読もうよ 」

「 メルシ〜〜〜 みちよ〜〜〜 」

話したり聞いたりすることに ほとんど不自由はないけれど

< 読む > は まだ少し苦手だし < 書く > は

全く不得手なのだ。

「 あ マダムだよ〜〜  」

「 うん  あ タオル〜〜〜 」

 

 − 朝のレッスンが始まった。

   

 

レッスンの後 隅っこで研究生たちがぼそぼそ・・・喋っている。

一応 掃除をしつつ・・・なのだが。 手よりも口の方が忙しい。

「 それで なに 踊る? フランソワーズ 」

「 う〜〜ん ・・・ みちよは? 」

「 アタシは 『 ドンキ 』 だな〜 」

「 そうねえ  はっきりした踊り、得意よねえ 」

「 それっきゃできないの。  フランは? 」

「 ・・・・ 『 ジゼル 』 かなあ 」

「 いいねえ フラン、キレイだから 」 

「 そんなこと ないわよ。 わたし テンポの速い踊りは

 ちょっと苦手 ・・・ 」

「 い〜のよぉ〜 それがフランらしいってことだもん 」

「 他の選択肢がありませ〜〜ん ・・・

 あ これはサトウ先生に申し込めばいいの? 」

「 そ。 アタシら研究生の担当は サトウ先生だからね 」

「 わかったわ ありがとう 」

「 ど〜いたしましてぇ  あ 美希〜〜 なに踊る? 」

「 あ〜 私 ・・・ オーロラ かなあ 」

「 美希 お姫様タイプ だもんねえ 」

「 みちよは?  フランソワーズは 『 ジゼル 』でしょう? 

「 ぴんぽん☆ で〜す 」

「 ふふ・・・ カワイ〜ね〜 フランってばあ 」

おしゃべりは止まらない・・・

 

    うふふ ・・・ なんか懐かしいな

 

    あの頃と同じ ね。

    ああ またこの中に居られるって

    さっいこうに 幸せだわ・・・!

 

    課題 頑張っちゃう〜〜〜

    ・・・ あ でも できれば ・・・

    二幕のパ・ド・ドウ  踊りたいな

 

    今は 無理でも ・・・ いつか きっと。

 

プロフェッショナルのダンサーを目指す若者の一人として 

フランソワーズは心を膨らませていた。

 

「 あのう サトウせんせい? 

「 おう フランソワーズ。 」

「 ・・ あのう パフォーマンスの課題ですけど ・・・

 一幕の ジゼルのヴァリエーション でお願いシマス 」

事務所で サトウ先生を捕まえフランソワーズは一気に喋った。

「 お うん  いいね  フランソワーズにぴったりだ。

 こう・・・ 地で踊れるんじゃないか? 

 君っていつも幸せな雰囲気が零れ出ているよ 」

「 え ・・・? 」

「 きらきらオレンジ色のオーラが見えるんだねえ 

 きみの踊りからは さ。 

 可愛らしい16歳のジゼル、期待しているよ 」

「 あ  はい ・・・ 」

「 音はこっちで用意してあるから 借りていくように 

 振りは ウチのHPからダウン・ロードできるからね 」

「 はい  あのう・・・ 」

「 ん? 」

「 今回の課題にはないですけど・・・

 あのぅ・・・ 二幕のパ・ド・ドゥ って

 踊るチャンス ・・・ ありますか  今じゃなくても ・・・ 」

「 う〜ん それは団員になってから かな。 」

「 ・・・はい ・・・ 」

「 あらあ フランソワーズ、 なに踊るの? 」

主宰者のマダムが ひょっこり事務所に顔を出した。

「 あ お帰りなさい。 『 ジゼル 』で受理しました 」

「 ああ いいわねえ  ぴったり。 

「 ・・・ はい ・・・ 

 あの  いつか 二幕のパ・ド・ドウ が踊れればって 」

勇気をだして 言ってみた。

「 ふふふ  もうちょっと苦労してからにしたら? 」

「 は  い?? 」

「 あなた 幸せなお姫様だわ。 きらきらしてて すごく素敵よ。

 きっとね もっといろいろな経験をしたら いろいろな踊りを

 踊れるようになると思うの。 」

「 は  あ ・・・ 」

「 だから 今は。 幸せなジゼルを踊ってね 

「 ・・・ はい 」

「 頑張って。 今年の研究生は皆 楽しみだわあ〜 」

少しぎこちなく微笑み失礼します ・・・と 彼女は事務所を出た。

 

 

  コッツン コツコツ  コッツン。

 

帰路の足取りは − かなりフクザツだった。

 

    わたし ・・・ 違うのに !

    幸せなお姫さま なんかじゃないっ

 

    ねえ この笑顔は この身体は

 

      ツクリモノ なの よ ・・・!

 

誰にも言えない でも 決して忘れたりなんかできない事実を

彼女は これからどう抱えてゆくか混乱していた。

 

「 ただいま 戻りました ・・・ 」

「 あ お帰り〜〜〜 フランソワーズ 」

玄関のドアをあけると ジョーが飛び出してきた。

「 ? た ただいま ・・・ あ これから出かけるの? 」

彼の勢いにちょっぴり驚いてしまった。

「 え?!  ううん。 きみを待ってたんだ〜  

「 ?? あ お腹 ぺこぺこ? 

 食糧庫の棚にね カップ麺とかいろいろ・・・買ってあるわよ? 」

「 ち が〜〜〜うよ〜〜〜〜 

 腹へったら ちゃんと自分で作ります。 」

「 そう? 」

「 ん。 あの ですね フランソワーズさん 」

「 はい? 」

改めて彼を眺めれば なんときっちりスーツを着ていた。

 

    え。  ・・・ なんで??

    珍しいわね〜〜〜

    たしか ・・・ スーツって

    一着しかもってないはずじゃ・・・

 

「 フランソワーズ。  あの ・・・ 」

ジョーは ぴ・・・っと姿勢を正し彼女の真ん前に立った。

「 はい? 」

「 あの  ぼくと付き合ってくれますか 」

「 ?  ええ いいわ これから? どこへ行くの? 

「 ・・・ は ・・・? 」

「 一緒に行きましょうよ  ヨコハマ? トウキョウも

 すこしは詳しくなったわよ わたし。 

「 あの〜〜 さ そういうコトじゃなくて 」

「 ??  どういうこと? 

「 あの! 付き合って ってコトはですね〜

 あ〜〜 ステディな仲になりませんか って意味です 」

「 ・・・ え  

「 あのう ・・・ だめ ・・・? 」

「 ・・・・・ 」

金髪美女 は ぶんぶん ・・・ 首を横に振ってくれた。

「 だめ じゃないわ! 」

「 え うわあ♪  マジ?? 」

「 わたし。 サイボーグ よ?  それで いいの 」

「 ぼく サイボーグだ。 きみよかず〜〜〜っと完全に近い

 サイボーグなんだ。   それでも   いい ? 」

「 わたし おばあちゃん よ?  ジョーよか ず〜〜〜っと

 年上 だし。 すごしてきた時代も違うの。

 それでも  いい? 」

 

    なんでもかんでも フランソワーズ なら いいよ!

 

ジョーは両手をあげて そう叫んだ。

「 ・・・ メルシ ・・・ 」

フランソワーズは俯いて両手で顔を覆ってしまった。

「 顔 あげてよ〜〜  ねえ フラン 

「 ・・・ だって ・・・ 」

「 ぼく 大好きです。 フランのこと、誰よりも大事です 

「 ・・・ ・・・ 」

 

     むぎゅう〜〜〜  

 

突然 白い腕がジョーの首に絡みつき 少し冷たい唇が彼の唇に押し付けられた。

「 ・・・ ( うっわ〜〜〜〜〜〜〜 ) 」

じゃぱに〜ず・ぼーい は 実にぎこちな〜〜く彼女の背に

両手を回したので あったとさ。

 

 

  だが しかし。  こんなに平穏な日々ばかり ― ではなかった。

 

だって彼らは 戦闘用サイボーグ なのだから・・・

小規模のミッションは ちょいちょい発生した。

「 なぜ!? わたしだってサイボーグよ!

 参加するわ!  特別扱いはやめて 」

「 フラン。 きみは待機していて。

 そして 博士とイワンを護ってくれ。 」

「 皆で一緒に行けばいいじゃない ! 

「 ドルフィン号は ものすごく性能アップしたんだ。

 ぼくらだけでも 十分ミッションを遂行できる。 」

「 でも 」

「 きみは ― きみの役割を果たせ。

 博士たちとこの邸を護れ。 ぼく達の帰るべき場所を ね 

「  ・・・・ 」

ジョーは ほとんどの場合、彼女が参加することをよしとしなかった。

そして 彼女ナシでも十分に使命を果たし 無事に帰還していた。

 

     ・・・ こんなの、イヤだわ。

     わたしを護りたいから?

     わたしのため ・・・ ?

 

     それは ちがう。 ちがうわ !

 

そして あの地下での壮絶な闘い ―

この時は全員の総力戦となり もう命からがらなんとか帰還した。

意外なことに 戻ってみれば地上ではほんの数日のことだったのだけれど・・・

 

  ただ ― 二人の仲間の回復には 時間が掛かった。

 

「 レッスンに行っておいで 」

「 でも! 」

「 コイツらのことは ― ワシとここの装置がしっかりと看護しておる 」

「 ほっほ〜〜 今日はワテもおるで〜〜 」

「 張大人 ・・・ 」

「 お前はお前のやるべきことをしなさい。 」

「 そやで〜〜  さあさ 遅刻するで 行きやあ〜 

「 しっかりレッスンをしてくるのが 

 今 フランソワーズがするべきことだぞ 

「 ・・・でも ・・・ 」

「 さあさあ 行なさい 」

「 ・・・ 」

毎朝の押問答の末、 フランソワーズは押し出されるみたいに

レッスンに通った。

「 おお そうじゃ。 パフォーマンスはどうじゃったかな。

 課題がある、と言っておっただろう? 」

博士は ちゃんと覚えていてくれた。

「 ・・・ はい 合格しました。

 研究生から まずは準団員になれました。 」

「 それはよかったのう  確か 『 ジゼル 』 を

 踊ると言っていたな 」

「  はい。 一幕の ・・・ 」

「 ああ 恋する乙女の踊り じゃなあ 」

「 博士。 お詳しいのですね 」

「 ははは お前が目指している道だもの ・・・

 ワシも勉強しておるよ。  古典はどの作品も重厚で

 奥が深いな 

「 はい!  あの ・・・ 嬉しいです。 」

「 ははは ・・・ アイツはこういう方面には疎いからなあ 」

「 ・・・ 仕方ない かも・・・ 」

「 おいおい < 教育 > して行けばよいよ。 」

「 はい そうします 

 

瀕死で戻ってきた二人は ―  ゆっくり 快復していった。

 

「 ・・・  や あ ・・・  」

久々に見た茶色の瞳は 相変わらず優しい光を湛えている。

「 ・・・ ジョ― ・・・ 」

「 踊って ・・ いる  よ  ね・・・? 

「 ・・・・ 」

フランソワーズは 涙を吹き飛ばしつつ頷いた。

「 そ ・・・っか  よ かった・・・ 」

「 ・・・・ 」

彼女は 彼の手を握り ただただ涙を流した・・・。

 

この青年は 優しい。  本当に心の底から優しい。

それが彼自身だから だろう。 

 

  ということは ― 

 

彼は 誰にでも優しい。 真実 優しく振舞い笑顔を向ける。

 

    そう ・・・ 彼女にだけ、ではなく。

 

 

Last updated : 03,02,2012.            back   /     index    /    next

 

 

*********   途中ですが

かなりフクザツな心境だったでしょね ・・・

特に 第一世代 の彼らは。

ジョー君は わりとあけらか〜〜ん だったかも★

もう一回  続きます〜〜〜 <m(__)m>