『 わたしの ジゼル ― (2) ― 』
早春のある日 ―
お日様がそろそろ天辺から西に向かって顔を傾け始めたころ。
海岸通りから別れた私道 ― かなりな急坂を
女性が一人 ゆっくりと上ってゆく ・・・ 泣きながら。
金色の髪が 午後の陽射しにきらきらと輝いている。
帰り道 声を上げて泣けるのは邸へと続くあの坂道 だけだった。
フランソワーズは 泣いた。
顔をゆがめ 空を仰ぎ 声を上げ ― 泣いた。
涙は頬から首を伝わり 襟元がぐっしょりと濡れてきた。
それでも 彼女は泣き続けた。
悲しかったから? 悔しかったから? 辛かったから?
そうじゃ ない。
「 ・・・ ふ ・・・う ううぁア・・・ 」
彼女は 心の底から吹きだす 喜び で泣いていたのだ。
カトリーヌ ・・・! 二コラ !
黒い瞳のアヤ ・・・
ああ 本当のわたし を覚えていてくれるのね
18歳のフランソワーズ を。
ああ ああ ああ 嬉しい ・・・
本当のわたし は ちゃんと生きていたんだわ
あなた達のこころの中に!
とんでもない運命の狂った嵐に捕らわれ ― 無茶苦茶な日々の果て
やっと ごく普通の日々 を手にいれた。
あまりにも過酷な日々を もう思い出したくもなかったし
いちいち感情を動かしていたら たちまち心が壊れてしまう。
自分自身を護るため 彼女は固く心の扉を閉ざしていた。
激しく感情を動かすことを封じていた。
それを 今 ― 一気に解き放った ・・・ !
「 ・・・ 嬉しい ・・・ !! ああ 嬉しい わ 」
フランソワーズの心の中で ずっと ― 先ほどの情景を反芻していた。
どうぞ、と その女性はドアを開け彼女を招きいれた。
事務室にも見える私室だったが 瀟洒ででも居心地のよい雰囲気だ。
「 お掛けになって・・・ ああ あなたのお国に言葉の方がいい? 」
「 どちらでも ・・・ 」
「 そう? じゃあ ― 」
女性は ― このバレエ団の主宰者であり初老、といっていい年代らしいが
声には張りがあり なによりも背筋はぴんと伸びている。
彼女は 流暢なフランス語で話し始めた。
「 おばあちゃんの思い出話だと思って すこし聞いていただける? 」
「 は はい ・・・ 」
「 私 貴女くらいの頃 パリのバレエ学校に留学していたの。
ええ もう何十年も前のコトですもの、日本人では珍しかったと
思うわ。 もう毎日 夢中だった ・・・ 」
「 ・・・ はい 」
「 一日中ず〜〜っと学校のスタジオで自習したりして・・・
その時 憧れの上級生がいて そのヒトがアナタにそっくりなの 」
「 ・・・ そ のひと は 」
「 なにか事件に巻き込まれたらしくて 行方不明になって。
周囲の友人達は悲しんで 嘆いて 怒って ― 決心してたわ
一番の親友の方はね 踊って世界中を回るって。 彼女を探すために。
パートナーだった方は 彼女のためにカンパニーに残るって。
いつ戻ってきてもいいように ・・・ってね 」
「 ・・・・・ 」
「 私も微力だけど この国に戻ってきてからいろいろ探したけれど・・
数年後 親友の方とは初の来日公演で会うことができた ・・
パートナーだった彼は プロデューサーになっていたの。
そして 一生 彼女のことは忘れないようにしましょう と
誓いあったの。 」
「 ・・・ す すてき ですね 」
「 ふふふ 年寄の昔話よ ・・・
で 偶然出会った そっくりな貴女・・・ 放っておけなかった 」
「 ・・・ え 」
「 オーデイションで踊る貴女を見たとき 息が止まるかと思った・・・
あんなに憧れていた彼女が 目の前にいる って。
それも何十年も前と少しも変わらない姿で ・・・って。 」
「 ・・・ わたし は ・・・ 」
「 ええ ええ ごめんなさいね、 私の勝手な思い込みよ。
でも 声をかけずにはいられなかったの。
だってアナタ ・・・ とても踊りにくそうだったわ 」
「 あ あの ・・・ わたし、事情があって・・・
そのう ・・・ しばらく踊れなかったのです 」
「 そう・・・ブランクがあったのね。
でも また ― この世界に戻ってきた、そうでしょう? 」
「 はい。 その ために それを目標に ・・・ い 生きてきました 」
「 ダンサーなのね 貴女も 」
「 そうなりたいです 」
「 それじゃあ ね 」
「 はい? 」
「 それなら。 ウチで ここで レッスンを受けたらいいわ
レッスン生として 私のクラスに通っていらっしゃい 」
「 ・・・ え ・・? 」
「 お家の方に許可を頂いていらっしゃい 待ってますよ 」
「 は はいっ !!! 」
たったった♪ ふんふんふ〜〜〜ん♪
金髪娘が 軽い足取りで舗道をゆく。
ふわり ふわり 金の髪を翻し 宙に浮いている のかもしれない。
帰り道は 来る時とはまったく別の世界に思えた。
「 あら! こんなに新しい葉っぱが ・・・
うわあ〜〜〜 公園の木、ピンクの花が咲いてる!
え〜〜〜 もう桜が咲いてるの?? うわあ〜〜〜 きれい〜 」
「 あ? ここから ・・・ 白い山が見えるわ
あれって・・・ わ〜〜 フジサン? きれい〜〜 」
行きは緊張していて 足元の敷石しか見ていなかった らしい。
「 都心に近いのに 素敵な町ねえ・・・
ねえ よろしく! わたし これから毎日 来まぁす♪ 」
街中に 笑顔を振りまき 手を振りたい気分だった。
電車の中では こみ上げてくる温かい想いに 滲んでくる温かい
涙を隠すのに必死だった・・・
そして 邸への坂道で ― とうとう彼女は泣き出した 声を上げて。
ただいま、の声に 迎えてくれたジョーは 目を見張っていた。
「 あ お帰り ?? あ の 合格 ・・・? 」
彼はむちゃくちゃ複雑な表情を見せた。
あ ・・・ うふふ ごめ〜〜ん
こんな顔 可笑しいわよねえ?
さんざん泣き笑いしてきたから・・
あのね ジョー 聞いて!
博士にも すぐに伝えようと思っていた。
わくわくしつつ もう嬉しくて仕方がない。
状況はいろいろ違うが やはり 同じ時代 を生きてきたヒトなのだ。
親近感を感じてしまうのは 自然のことかもしれない。
けれど ― リビングで 博士の前に立ったとき
彼女は こみ上げる想い を 封じ込めた。
く・・・っと なにかを呑みこみ ごく自然な風に
今日の結果を 結果のみを報告したのだ。
これは すこし先の話になるが ―
彼女はジョーに こそっと打ち明けた。
「 やっぱりなにかあったんだね 」
「 ・・・ わかってた? 」
「 なんとなく・・・ だってあの時のきみの顔・・・
普通に泣いた後 とはとても思えなかったもの 」
「 え やだ〜〜 そんなに腫れぼったい目、してた? 」
「 いや〜〜 なんていうか ・・・
ただ事じゃあないなってカンジかな 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
「 それに さ。 なにか聞いてはいけないって雰囲気だったし。
でもね その後のきみの笑顔が − なんていうか・・・
とても自然で印象的だったから・・・
ぼくは それ以上 なにも聞けなかった 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ありがと 」
フランソワーズは そっと彼の手に触れた。
大きな手 そして 温かい・・・
ツクリモノ で 偽物の血液が流れている けど。
この手の持ち主は 真に温かい人 だわ
「 よかったら 聞くけど。 それで − ? 」
ええ ・・・ と彼女は頷き その日聞いた小説みたいな出来事の仔細を
彼に話した。
「 ・・・そ うか ・・・
それは 素晴らしい奇遇だね 」
「 そう なの ええ そうなのよ 」
「 それで きみは顔が腫れあがるほど 泣いたのか
」
「 そう なのよ 」
「 その先生は きみのこと、< わかった > のかな 」
「 ・・ ううん。 ただの他人の空似だと思ってるみたい。
当然よねえ ・・・ 40年以上 容姿が変わらない なんて・・・
に ・・ 人間じゃないもの。 」
彼女は自分でそう言い切ってから 俯いている。
「 ・・・ 」
ほわん。 大きな温かい手が 彼女の肩に触れた。
「 そんなこと 言っちゃいけない 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 でも その先生は喜んでいたんだろ?
そのう・・・ < そっくり > なきみと出会って
ずっと抱えてきた想いを語れて 」
「 ・・・ 多分 ・・・ 」
「 なら それでいいんだ と思う。
誰でも ず〜っと心の奥の奥に仕舞っておきたいことって あるし。」
「 ええ ・・・ 」
「 博士にも そう いつか・・・
さらっと話しても いいんじゃないかなあ 」
フランソワーズは ゆっくりと顔をあげた。
その頬に涙の跡は見えたけど 彼女は 今、泣いては いない。
「 ・・・ 言えない、 言っちゃいけない と思ったの 」
「 ! どう して?! 」
ジョーは 驚きを隠さなかった。
「 なんで?? 博士ってばね きみが帰ってくるまで
もうね うろうろそわそわ・・・ もう心配しまくってたよ? 」
「 ・・・ 」
「 ぼく ・・・ ちょっと羨ましいなあ〜 って思ったくらい。
やっぱりオンナノコは違うんだなあ ってさ〜〜
大事な娘のことを心配するお父さん って感じでさ
」
「 ジョー。 わたし、博士のこと、敬愛しているわ。
尊敬してるし 家族 だと思ってる。
愛してるわ 家族として ― 今は ね。 」
でも でも ね。
すとん、と声のトーンを落とし その頬から笑みは消えた。
「 ・・・なんか あった ? 」
「 ジョー
」
彼女は真正面から 彼を見つめた。
わたし を 本当のわたしを こ 殺して
003 にしたヒト よ
あのヒトが この機械仕掛けの身体に したのよ
「 そ それ は ・・・ ! 」
「 今は 博士の人柄も性格も よくわかっているし
今までの行動を尊敬もしているわ。 」
「 だよね! 今はもう家族だよね 」
だけど。
彼女はもう一度 ジョーを見た。
それは まっすぐで一遍の感情も含まれてはいない眼差しだ。
「 ・・・ ? 」
彼はその視線の強さに驚き 少し視線を逸らせたほどだ。
「 だけど ね。 わたし ― 」
「 ・・・ う ん ? 」
「 忘れる なんてできない。
わたし 心が狭いのかもしれないわ
忘れたフリはできるでしょう でも 本当に忘れる なんて出来ないの。
そういう状況にいる人に対して 話すコトではない、って思ったの。 」
「 ・・・・ 」
「 だから わたし。 このコトはジョー以外には 言わないわ。
ずっと心の奥のチェストに 仕舞っておくの。 」
「 ・・・ あ あの。 ごめん ぼくは ・・・
その ・・・ 一番最後に加わった新参者で
きみ達の気持ち、全然共感できなくて ・・・ ごめん。 」
「 ああ 気にしないで それはジョーのせいではないわ 」
「 だけど ・・・・ 」
「 仕方ないことでしょ? 気にしないで。
ああ やっぱりわたし、心が狭いのね ・・・
ジゼル のように 自分を裏切ったヒトに
どうぞ 幸せに生きて って言えないの 」
「 無理に言う必要 ないよ!
きみは きみの信ずる道をいったらいいんだ !
ぼく できる限りサポートするから。
残念だけど ぼくはダンサーじゃないから ・・・
そんなことしかできないけど 」
「 ありがとう! でもね ジョー。 」
「 なに ? 」
「 ジョーは ジョーの道を歩いて欲しいわ。 」
「 え・・・ 」
「 ジョーには ジョーだけしかできない・ジョーだけが
やりたいこと、あるでしょう? 」
「 あ ・・・ う〜〜ん??
ある かなあ・・・? 」
「 あるわ 絶対に。 だから それを探して
その道を行って欲しいの。 だってジョーの人生でしょう? 」
「 それは まあ ね。 」
「 うふ でも ありがと♪ 聞いてくれて・・・
ジョーがいてくれて ・・・ 幸せよ。 」
「 えへ・・・ そ そう? ぼく 聞くことしかできないけど 」
「 ううん ううん! ジョーが ・・・
ジョーじゃなくちゃだめなの。 ジョーが いいの。 」
「 えへ ・・・ そ うなんだ? 」
うっぴゃ〜〜〜〜〜〜 !!!
やば〜〜〜〜 超やば〜〜〜〜 !
うっそだろ?? って
う わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いつもと変わらず穏やかに微笑みつつ ― 彼だってオトコノコなのだ。
内心では 欣喜雀躍 つまり ぶっ飛んでいたのである。
もっとも 目の前の金髪美少女は微塵も気付いてはいない ・・・
そして フランソワーズの < 新たなる闘い > が
始まった。
「 いってきまあ〜〜す 」
「 気をつけてな 」
「 はあい。 あ 博士、 ジョーを起こして 」
「 わかっとる。 お前は自分のことに専念しなさい 」
「 はあい 」
彼女は 毎朝 海に近い町外れから バスとJRとメトロを乗り継ぎ
レッスンに通い始めた。
その朝も 元気いっぱいスタジオに入った。
すみっこのバーには <仲良し> が もうストレッチをしていた。
「 おっはよ〜 みちよサン 」
「 フランソワーズ。 おっは〜〜 <サン> いらないって 」
「 あは ごめん〜〜 みちよ 」
「 おっけ〜 今日はちょっと早いね? 」
「 ええ がんばって一本早い電車に乗れたの〜〜
ねえ ・・・ 皆 見てるの、なに? 掲示板とこ 」
「 え? あれ・・・ 知らないかあ・・
次のパフォーマンスの課題発表なのさ 」
「 ?? それ・・・ 公演とはちがうの? 」
「 公演はあ 団員さん達が踊るの。
アタシら研究生は パフォーマンスで課題を踊って・・・
いい評価をもらって団員になるんだ 」
「 ・・・ テスト ね? 」
「 まあ そんなモンかな。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 ふうん、って。 フランソワーズ、全員参加だよ?
フランソワ―ズも踊るんだよ? 」
「 え。 」
「 え じゃないよ〜〜 あとでよっく読んで課題を選んで
先生に申し込む 」
「 ・・・ あの 日本語? 」
「 あ いいよ 一緒に読もうよ 」
「 メルシ〜〜〜 みちよ〜〜〜 」
話したり聞いたりすることに ほとんど不自由はないけれど
< 読む > は まだ少し苦手だし < 書く > は
全く不得手なのだ。
「 あ マダムだよ〜〜 」
「 うん あ タオル〜〜〜 」
− 朝のレッスンが始まった。
レッスンの後 隅っこで研究生たちがぼそぼそ・・・喋っている。
一応 掃除をしつつ・・・なのだが。 手よりも口の方が忙しい。
「 それで なに 踊る? フランソワーズ 」
「 う〜〜ん ・・・ みちよは? 」
「 アタシは 『 ドンキ 』 だな〜 」
「 そうねえ はっきりした踊り、得意よねえ 」
「 それっきゃできないの。 フランは? 」
「 ・・・・ 『 ジゼル 』 かなあ 」
「 いいねえ フラン、キレイだから 」
「 そんなこと ないわよ。 わたし テンポの速い踊りは
ちょっと苦手 ・・・ 」
「 い〜のよぉ〜 それがフランらしいってことだもん 」
「 他の選択肢がありませ〜〜ん ・・・
あ これはサトウ先生に申し込めばいいの? 」
「 そ。 アタシら研究生の担当は サトウ先生だからね 」
「 わかったわ ありがとう 」
「 ど〜いたしましてぇ あ 美希〜〜 なに踊る? 」
「 あ〜 私 ・・・ オーロラ かなあ 」
「 美希 お姫様タイプ だもんねえ 」
「 みちよは? フランソワーズは 『 ジゼル 』でしょう? 」
「 ぴんぽん☆ で〜す 」
「 ふふ・・・ カワイ〜ね〜 フランってばあ 」
おしゃべりは止まらない・・・
うふふ ・・・ なんか懐かしいな
あの頃と同じ ね。
ああ またこの中に居られるって
さっいこうに 幸せだわ・・・!
課題 頑張っちゃう〜〜〜
・・・ あ でも できれば ・・・
二幕のパ・ド・ドウ 踊りたいな
今は 無理でも ・・・ いつか きっと。
プロフェッショナルのダンサーを目指す若者の一人として
フランソワーズは心を膨らませていた。
「 あのう サトウせんせい? 」
「 おう フランソワーズ。 」
「 ・・ あのう パフォーマンスの課題ですけど ・・・
一幕の ジゼルのヴァリエーション でお願いシマス 」
事務所で サトウ先生を捕まえフランソワーズは一気に喋った。
「 お うん いいね フランソワーズにぴったりだ。
こう・・・ 地で踊れるんじゃないか?
君っていつも幸せな雰囲気が零れ出ているよ 」
「 え ・・・? 」
「 きらきらオレンジ色のオーラが見えるんだねえ
きみの踊りからは さ。
可愛らしい16歳のジゼル、期待しているよ 」
「 あ はい ・・・ 」
「 音はこっちで用意してあるから 借りていくように
振りは ウチのHPからダウン・ロードできるからね 」
「 はい あのう・・・ 」
「 ん? 」
「 今回の課題にはないですけど・・・
あのぅ・・・ 二幕のパ・ド・ドゥ って
踊るチャンス ・・・ ありますか 今じゃなくても ・・・ 」
「 う〜ん それは団員になってから かな。 」
「 ・・・はい ・・・ 」
「 あらあ フランソワーズ、 なに踊るの? 」
主宰者のマダムが ひょっこり事務所に顔を出した。
「 あ お帰りなさい。 『 ジゼル 』で受理しました 」
「 ああ いいわねえ ぴったり。 」
「 ・・・ はい ・・・
あの いつか 二幕のパ・ド・ドウ が踊れればって 」
勇気をだして 言ってみた。
「 ふふふ もうちょっと苦労してからにしたら? 」
「 は い?? 」
「 あなた 幸せなお姫様だわ。 きらきらしてて すごく素敵よ。
きっとね もっといろいろな経験をしたら いろいろな踊りを
踊れるようになると思うの。 」
「 は あ ・・・ 」
「 だから 今は。 幸せなジゼルを踊ってね 」
「 ・・・ はい 」
「 頑張って。 今年の研究生は皆 楽しみだわあ〜 」
少しぎこちなく微笑み失礼します ・・・と 彼女は事務所を出た。
コッツン コツコツ コッツン。
帰路の足取りは − かなりフクザツだった。
わたし ・・・ 違うのに !
幸せなお姫さま なんかじゃないっ
ねえ この笑顔は この身体は
ツクリモノ なの よ ・・・!
誰にも言えない でも 決して忘れたりなんかできない事実を
彼女は これからどう抱えてゆくか混乱していた。
「 ただいま 戻りました ・・・ 」
「 あ お帰り〜〜〜 フランソワーズ 」
玄関のドアをあけると ジョーが飛び出してきた。
「 ? た ただいま ・・・ あ これから出かけるの? 」
彼の勢いにちょっぴり驚いてしまった。
「 え?! ううん。 きみを待ってたんだ〜
」
「 ?? あ お腹 ぺこぺこ?
食糧庫の棚にね カップ麺とかいろいろ・・・買ってあるわよ? 」
「 ち が〜〜〜うよ〜〜〜〜
腹へったら ちゃんと自分で作ります。 」
「 そう? 」
「 ん。 あの ですね フランソワーズさん 」
「 はい? 」
改めて彼を眺めれば なんときっちりスーツを着ていた。
え。 ・・・ なんで??
珍しいわね〜〜〜
たしか ・・・ スーツって
一着しかもってないはずじゃ・・・
「 フランソワーズ。 あの ・・・ 」
ジョーは ぴ・・・っと姿勢を正し彼女の真ん前に立った。
「 はい? 」
「 あの ぼくと付き合ってくれますか 」
「 ? ええ いいわ これから? どこへ行くの? 」
「 ・・・ は ・・・? 」
「 一緒に行きましょうよ ヨコハマ? トウキョウも
すこしは詳しくなったわよ わたし。 」
「 あの〜〜 さ そういうコトじゃなくて 」
「 ?? どういうこと? 」
「 あの! 付き合って ってコトはですね〜
あ〜〜 ステディな仲になりませんか って意味です 」
「 ・・・ え 」
「 あのう ・・・ だめ ・・・? 」
「 ・・・・・ 」
金髪美女 は ぶんぶん ・・・ 首を横に振ってくれた。
「 だめ じゃないわ! 」
「 え うわあ♪ マジ?? 」
「 わたし。 サイボーグ よ? それで いいの 」
「 ぼく サイボーグだ。 きみよかず〜〜〜っと完全に近い
サイボーグなんだ。 それでも いい ? 」
「 わたし おばあちゃん よ? ジョーよか ず〜〜〜っと
年上 だし。 すごしてきた時代も違うの。
それでも いい? 」
なんでもかんでも フランソワーズ なら いいよ!
ジョーは両手をあげて そう叫んだ。
「 ・・・ メルシ ・・・ 」
フランソワーズは俯いて両手で顔を覆ってしまった。
「 顔 あげてよ〜〜 ねえ フラン 」
「 ・・・ だって ・・・ 」
「 ぼく 大好きです。 フランのこと、誰よりも大事です 」
「 ・・・ ・・・ 」
むぎゅう〜〜〜
突然 白い腕がジョーの首に絡みつき 少し冷たい唇が彼の唇に押し付けられた。
「 ・・・ ( うっわ〜〜〜〜〜〜〜 ) 」
じゃぱに〜ず・ぼーい は 実にぎこちな〜〜く彼女の背に
両手を回したので あったとさ。
だが しかし。 こんなに平穏な日々ばかり ― ではなかった。
だって彼らは 戦闘用サイボーグ なのだから・・・
小規模のミッションは ちょいちょい発生した。
「 なぜ!? わたしだってサイボーグよ!
参加するわ! 特別扱いはやめて 」
「 フラン。 きみは待機していて。
そして 博士とイワンを護ってくれ。 」
「 皆で一緒に行けばいいじゃない ! 」
「 ドルフィン号は ものすごく性能アップしたんだ。
ぼくらだけでも 十分ミッションを遂行できる。 」
「 でも 」
「 きみは ― きみの役割を果たせ。
博士たちとこの邸を護れ。 ぼく達の帰るべき場所を ね 」
「 ・・・・ 」
ジョーは ほとんどの場合、彼女が参加することをよしとしなかった。
そして 彼女ナシでも十分に使命を果たし 無事に帰還していた。
・・・ こんなの、イヤだわ。
わたしを護りたいから?
わたしのため ・・・ ?
それは ちがう。 ちがうわ !
そして あの地下での壮絶な闘い ―
この時は全員の総力戦となり もう命からがらなんとか帰還した。
意外なことに 戻ってみれば地上ではほんの数日のことだったのだけれど・・・
ただ ― 二人の仲間の回復には 時間が掛かった。
「 レッスンに行っておいで 」
「 でも! 」
「 コイツらのことは ― ワシとここの装置がしっかりと看護しておる 」
「 ほっほ〜〜 今日はワテもおるで〜〜 」
「 張大人 ・・・ 」
「 お前はお前のやるべきことをしなさい。 」
「 そやで〜〜 さあさ 遅刻するで 行きやあ〜 」
「 しっかりレッスンをしてくるのが
今 フランソワーズがするべきことだぞ 」
「 ・・・でも ・・・ 」
「 さあさあ 行なさい 」
「 ・・・ 」
毎朝の押問答の末、 フランソワーズは押し出されるみたいに
レッスンに通った。
「 おお そうじゃ。 パフォーマンスはどうじゃったかな。
課題がある、と言っておっただろう? 」
博士は ちゃんと覚えていてくれた。
「 ・・・ はい 合格しました。
研究生から まずは準団員になれました。 」
「 それはよかったのう 確か 『 ジゼル 』 を
踊ると言っていたな 」
「 はい。 一幕の ・・・ 」
「 ああ 恋する乙女の踊り じゃなあ 」
「 博士。 お詳しいのですね 」
「 ははは お前が目指している道だもの ・・・
ワシも勉強しておるよ。 古典はどの作品も重厚で
奥が深いな 」
「 はい! あの ・・・ 嬉しいです。 」
「 ははは ・・・ アイツはこういう方面には疎いからなあ 」
「 ・・・ 仕方ない かも・・・ 」
「 おいおい < 教育 > して行けばよいよ。 」
「 はい そうします 」
瀕死で戻ってきた二人は ― ゆっくり 快復していった。
「 ・・・ や あ ・・・ 」
久々に見た茶色の瞳は 相変わらず優しい光を湛えている。
「 ・・・ ジョ― ・・・ 」
「 踊って ・・ いる よ ね・・・? 」
「 ・・・・ 」
フランソワーズは 涙を吹き飛ばしつつ頷いた。
「 そ ・・・っか よ かった・・・ 」
「 ・・・・ 」
彼女は 彼の手を握り ただただ涙を流した・・・。
この青年は 優しい。 本当に心の底から優しい。
それが彼自身だから だろう。
ということは ―
彼は 誰にでも優しい。 真実 優しく振舞い笑顔を向ける。
そう ・・・ 彼女にだけ、ではなく。
Last updated : 03,02,2012.
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********* 途中ですが
かなりフクザツな心境だったでしょね ・・・
特に 第一世代 の彼らは。
ジョー君は わりとあけらか〜〜ん だったかも★
もう一回 続きます〜〜〜 <m(__)m>